平成13年度
岡山県産業教育振興会内地産業見学 研修報告



英国園芸療法協会日本連絡事務所
  Horticultural Therapy Japan Branch

 
(1)設立趣旨
 ア 英国園芸療法協会
 園芸を療法として発展させ、博士号のコース、療法士まで作り出した欧米に比べ、わが国の福祉に対する考え方は、格差を感じさせるものである。
 英国園芸療法協会(別名Thrive)は1978年に英国で設立されたが、それは次のような実践現場で3つの共通する問題を抱えていたからである。@実践者に栽培知識が欠けているため、植物が枯死してしまう。A実践者に園芸療法の理論が欠けている。B実践者同士の横の連絡がないため、同じ問題にそれぞれが立ち向かっている。
 協会の活動として、@施設や病院などに対する支援 A園芸全般にわたる情報サービス B園芸療法士の養成C機関誌Growth Pointや関連書籍の出版 Dデモンストレーションガーデンでの園芸療法の啓蒙および指導 E視覚障害者のためのボランティアなど
 イ 日本における活動
 英国園芸療法協会はチャリティーで運営されており、わが国においては実情が合わず、チャリティーで運営できる素地がない。そのため、正式には日本連絡事務所となっている。
 1993年から研究を開始し、ノースカロライナ大学、ジョージア大学などのテキストを訳して使っていた。
わが国にも園芸療法を推進する団体が他にも存在するが、課題として園芸療法の資格制度を持たない事があげられる。日本支部になることによって、園芸療法先進国である英国からの情報サービスを直に受けられる。
 第1期、第2期園芸療法指導者養成基礎講座が終了し、第3期の講座を行っているところである。         

(2)園芸療法の定義
 園芸を手段として、心身の状態を改善すること!!(Improving well-being by usinggardening)

(3)園芸療法の長所
 園芸療法にはいろいろな適用の仕方があるので、ほとんどすべての種類の障害に対して利用できる事である。@様々なレベルの作業を生み出し、作業内容が多様でする。A園芸は、楽しみと満足感を与える。B野外活動が組める。C収穫物がある。D収入を得る機会が与えられる。E季節を知り、自然と触れ合える。F作業療法の中で、五感に訴えかけることができる。

(4)園芸療法の利用法
 ア レジャーとして行う園芸
 自由時間を多く持ち、余暇の時間帯を埋める活動を持たない者は、ストレスを溜めやすく、健康や幸福感を喪失させることが多い。
 イ 運動としての園芸
 身体を動かす作業は身体の機能を高め、精神面に充実感を与えるということが知られている。ストレスを制御し、緩衝役となる。精神面の健康を図るという点では、肉体運動は落ち込んだ気持ちや不安症をの解消に効果を示す。園芸作業には、軽い作業もあれば、激しい作業もあり、クライアントにあった作業を選択できる。
 ウ 社会性を養う園芸
 園芸作業を行うこと自体が社会性を要求するが、治療面でも社会性の回復という点は見逃すことはできない。クライアントが自宅に復帰した後も、園芸を続けることで社会との接触を持つのに役立つ。
 エ 治療を最終目的とする場合
 ・継続して参加すること。・患者が活動に喜んで参加すること。・作業を行うことによってゴールに向かっていくという事を患者が感じ取れること。これらが満たされることによって、治療効果が高まるが、園芸が嫌いなクライアントには効果は期待できない。

(5)本校の教育活動に、特に参考となった点
 長い歴史に基づく理論と実践に基づく講習内容、系統だった講習内容である点は、少なく優れていると判断できる。園芸療法、園芸福祉の指導者として、その理論的背景を充分知ったうえでの日本の国内事情に適するように応用していくことが望まれる中、適切な講習内容である。
 英国など欧州の国々は、ガーデニングが自分たちの生活そのものとなっており、しかも人は自然の中の一つであるとの認識の上に立っている園芸療法であることが分かった。

 

社会福祉法人グリーンピア
 
(1)はじめに
 ア 日高病院におけるリハビリとのかかわり
 1977年に設立された日高病院は、人工透析と脳血管障害の後遺症を中心としたリハビリでは有数の医療機関である。人工透析の患者の就業問題を解決する一助にと、日高病院長を理事長として、1986年身体障害者通所授産施設「グリーンピア」が設立された。
 イ 病院関連施設としてのグリーンピア
 障害を持っていてもいきいきと働けることを理念としており、機械部品の組立などのほか、農業授産を採り入れている。1987、1988年に250坪と200坪の温室を作り、水耕カーネーションの栽培に取り組んでいる。1992年にはリハビリに園芸作業を導入し、脳卒中の後遺症や整形外科疾患等のリハビリ患者が多く集まるようになり、身体障害者の方の入所が多くなった。                            

(2)リハビリに、園芸を採り入れることができた理由
 ア 病院に隣接して、温室があり、しかも植物栽培の専門家の指導を受けれた。
 園芸療法という言葉があまり使われていなかったが、リハビリの一環として園芸作業を行い出した。それには、園芸の専門家・近藤まなみ氏(近藤龍良氏の長女)の関わりが大きな意味を持っている。
 イ リハビリの職種として、作業療法士が日高病院にいた。
 園芸の専門家との連携により、リハビリの一環として、自然に園芸療法を採り入れることができた。作業療法士がクライアントといっしょに温室や香りの庭(レイズドベット仕様)に出向き、指導に当たっていた。しかし後述のように、フラワービレッジとの連携解消により、園芸活動は低調となった。
 ウ リハビリの分野での園芸作業の認識度
 @機能訓練 A応用能力の向上 B心理的安定 C社会性の拡大 D生活の質の向上(楽しみとして)のために園芸作業が効果的であることを認識して行われていた。退院後も、家庭で園芸を楽しみながら身体機能の維持向上を図る可能性があると考えられる。
 身体に障害を持つと、喪失感を伴うことから家庭や会社、地域社会での生きる意味や自信を失いやすいが、植物を栽培することで、自信や創造的イメージを取り戻す機会となり、喪失感を埋め合わせることができる。
 植物を共同で栽培することで、コミュニケーションの拡大、役割作りが進み、社会参加の糸口となる。
 一般の健常者によって園芸作業は楽しみとなっており、障害者にとっても楽しみとして生活の中に採り入れてよいものである。

(3)現状と展望
 ア 毎日の作業を確保すること
 @作業時間帯、月〜金の13:00〜14:30まで Aスタッフ 作業療法士と介護職員、ボランティア B作業内容 1年を通じて作業を確保することが大変で、作業療法士が中心となって計画をしている。作業内容は主として草花栽培であるが、押し花やドライフラワー作り、栽培した野菜を使った調理など、多彩である。
 イ 生活主義に変化するリハビリの概念
 身体状況に合わせて柔軟に作業設定ができる点で優れており、リハビリテーションの概念も機能主義から生活主義に変化してきていることから、生活に密着した園芸作業など具体的な作業をリハビリに採り入れることは新しい概念に合い、しかも効果的である。
 ウ フラワービレッジとの連携解消 
 カーネーションの単価の低下等を理由として、グリーンピアのビニールハウスが駐車場となり、残った温室1つでは採算面でも問題となり、連携解消に発展してしまった。つまり、医療法人、社会福祉法人としての経営面のきびしさから温室が転用されてしまった。
 フラワービレッジという園芸指導者が病院・施設から去り、新たな人材を確保しない限り、再スタートはできない。
 エ 経済的に成り立たせるためには 
 @経営者の理解と信念がしっかりしていることが求められる。
 A病院・施設にあっては、園芸の生産から販売までの一貫した専門的知識・技術と、福祉の知識・技術を持ち合わせた人材の育成確保が必要である。 

(4)本校の教育活動に、参考となる点
 授産施設(グリーンピア)・医療法人(日高病院)として園芸活動に取り組む、その厳しい現実をみることができた。また、施設で園芸福祉等の活動が成り立つ条件を前述の(3)エのように再確認できた。特に、農業教員が福祉(理論と実践編)の勉強をすることが必要であると、強く感じた。
 また、本校が実施する場合、高校教育として、園芸福祉が成り立つ条件に次のことが追加される。つまり、本校生徒と、本校が実施(協力)する園芸福祉活動に参加される方々、双方にとってメリットがなければならない。



所    感

 福祉の現場では介護福祉士やホームヘルパーの活躍が見られるようになっているが、その中に、園芸療法・園芸福祉を導入するということは、元気な高齢者を作ろうとする国の政策とも合致する。しかし、そのためには、福祉と園芸両面が分かる人材に育成、または福祉と園芸の専門家同士の連携による支援作りが必要である。また、施設で園芸活動を支援する多数の園芸ボランティア(無償)が必要であることも分かった。このような事から、園芸の分かる福祉の専門家の養成が求められる。したがって、園芸を専門的に学ぶ本校園芸科学科の生徒達の進路として、福祉も視野に入れることができると考える。
 このたび、産業見学の機会を与えていただきました岡山県産業教育振興会をはじめ御指導いただきました関係各位に厚くお礼申し上げます。

 

 
  
以下、関連する視察研修

農事組合法人 フラワービレッジ倉渕生産組合
 
(1)設立趣旨
 ア はじめに
 障害を持つ人々を特別扱いしない「ノーマライゼーション」の発想から、地域の人々が助け合って生活する福祉農園である。しかし、社会福祉施設ではなく、約20名が働く農事生産法人であり、就労の場として花作りを基本としている。
 御子息が軽度の知的障害である近藤龍良氏は約10年前千葉県松戸市から家族とともに移り住み、花壇用の花やハーブ類の生産を始め、代表者を務めながら下記のような活動に取り組んでおり、園芸福祉活動の日本における良きリーダーである。    活動のきっかけとなった兄
 1986〜1987年に休耕田を開墾し直して施設建設を家族総出で行った。    
 イ 4つの理念
 @花や緑を通じて誰でも参加できるノーマライゼーション(障害者との共生)の社会作り A人々の心を癒す花や緑の普及・・・住まいや暮らし、コミュニティーに花の景観作り B環境・福祉・教育・健康を発信する農場作り・・・新しい「農」の経営 C連携、交流の推進によるネットワーク作り つまり、花を作ってただ売るだけでなく、「花や緑のある暮らし」を提案していくことも大きな仕事となっている。フラワービレッジは、花との新しい関わり方の提案なども含め、花をトータルで売る「福祉農園」の機能を有している、と言える。
 ウ 近藤龍良氏の新規参入の理念
 大切な点は、資金繰りを含めた経営全体のシュミレーションがいかにしっかり出来ているかという事である。しかし、もっとも重要な点は、「自分は何のために農業をするのか、自分は農業をやることによって社会にどんな貢献をするのか」という部分がしっかりしていなかったら、就農後、小さな挫折で挫けてしまう結果となる、という言葉に感動した。

(2)販売ルート
 市場を通さず、日本橋三越チェルシーガーデンなどのガーデンセンターや、委託された植え込みへの定植が主である。

(3)機能と効果
 ア 5つの機能
 @障害者を含む就労の場 A生産活動 B教育的機能(生涯学習、並びに人材育成) Cコンサルタント機能 D事務局機能(日本園芸福祉普及協会)
 イ 就労の効果
 障害者も就労の場として働いており、職業人としての自立意識が形成されるにつれて、身体的な回復にも繋がっている。

(4)今後の展開
 @各種園芸講座を開催している花楽舎で人材育成
 A園芸福祉の推進には、ボランティア生徒の確立と認知が必要であり、『園芸福祉ヘルパー』の制度を導入

(5)長野県総合教育センター産業教育部『平成13年度先端技術研修講座』の実施
 ア 研修講座名 『園芸セラピーと園芸福祉』
 イ 研修期間  7月24日〜28日、4泊5日
 ウ 対象者  農業科・家庭科・看護科(3名)
 エ 研修内容  1日目 園芸セラピーの概要 
         2日目 園芸セラピーの実習(T)、理論と技術(T)
         3日目 園芸セラピーと園芸福祉を生かした地域活性化
         4日目 園芸セラピーの実習(U)、理論と技術(U)
         5日目 クラインガルテンの設計と運営、ハーブガーデン・ケアガーデンの見学

(6)関連施設
      
 ア『花の情景研究所』
 @ 花と福祉の地域作り A 園芸福祉普及のための調査研究・啓蒙活動 B 福祉農園事業の企画・指導 C 暮らしに生かす植物の利用・指導 D 絶滅危惧植物の調査・研究・保護・生産
 イ 研修施設『花楽舎』
 @ハーブ染め、季節のコンテナガーデン、ハンキング、押し花等の講習会
 A園芸療法セミナー・栽培スクール・ハーブ教室等の開催
 ウ 日本園芸福祉普及協会(事務局)
 @平成13年4月設立。会長:東京農業大学学長
 A理念の特徴
   一般健常者への適応とコミュニティー作り
 B協会派遣講師としての活躍
   近藤龍良氏(理事長)長女・近藤まなみ氏(農場長)が全国各地で行われる研修会で講演活動  を行うとともに、都内の専門学校において、園芸福祉ヘルパー養成講座も講師として務めている。
 Cテキスト作り
   現在、日本園芸福祉普及協会認定・園芸福祉ヘルパーのテキスト作りの着手している。

(7)社会福祉法人グリーンピアとの連携解消
 
 過去3ヶ年、フラワービレッジが生産から販売まで指導してきたが、販売手数料以外はボランティアとして対応してきた。ハーブ類の販売名は、フラワービレッジ&グリーンピアとして、フラワービレッジ本体の生産物との差別化を図っていた。
 グリーンピアの温室の一つが駐車場となり、温室1つでは採算面でも問題となり、連携解消に発展してしまった。つまり、医療法人、社会福祉法人としての経営面のきびしさから温室が転用されてしまった。

(8)本校の教育活動に、特に参考となった点
 園芸福祉を根付かせようと様々な活動を全国展開しているので、最新の日本国内の園芸福祉情報がもっとも早く入手できる。また、園芸福祉に熱心に取り組む他の施設・個人とのネットワークを生かして、本校の園芸福祉活動を活性化できる指導機関(指導者)である。
 そのためには、組織として、個人として日本園芸福祉普及協会に入会することが望ましい。