平成14年度岡山県産業教育振興会内地産業見学「見学の内容・所感」
英国園芸療法協会(HTJapan)園芸療法実践講座
 
  
2002/08/31〜09/01神奈川県平塚市にて
                           学 校 名  岡山県立高松農業高等学校
                           職・氏名  教諭 三 宅 道 治
                                                  
1 講  師
  英国園芸療法協会副代表: Mr.Tim Spurgeon(ティム・スパージョン)
  英国園芸療法協会指導員: Ms.Jill McChesney(ジル・マチェスニー)
 
2 研修内容
(1)ガーデニングと視覚障害
 ア 概要
 セラピストの役割は、園芸ができるように視覚障害者に合ったそのスキルを教えることである。
 完全に視覚を失っている人には、見せながら説明することができない。弱視の方、視力の衰えている方には、見せながら指導ができる。視覚障害者に、園芸作業の1つひとつの段階をていねいに説明していくことが大切である。そのため、綿密にプラニング(計画)することが重要である。
 イ 実践練習
シミュレーション
・・・失明した人になりきって、セルトレイに種まきをする。
 Point@・・・培養土については、培養土は綺麗で、雑草の種が入ってないことが重要である。家庭の土を使うと、雑草も一緒に生えてきてしまう。また、クライアントの近所で購入できる培養土を使うことがPointである。培養土に虫がいたとしたら、それは視覚障害者にとって恐怖につながる。変だと気づくと、園芸作業をやめてしまう。
 PointA・・・4〜5人の視覚障害者に1人のインストラクタを配置し、一人ひとりのスペースを確保することが大切である。
 PointB・・・人によって、手を汚すことに抵抗感のある人もいるので、軍手やゴム手袋を使う手もある。これならば、手に土が付くことは少ないし、イヤな気持ちになることはない。
 PointC・・・種の大きさは大きな種のものから行ってもらうと、クライアントは慣れていく。
 PointD・・・ラベルを付け、氏名・日付を記入して、誰のものかを明らかにすること。ラベルを忘れやすいので留意すること。
 PointE・・・セルの真ん中に種を蒔き、うまくできるということが自信につながるのである。うまくできなかったならば、失敗の気持ちが残ってしまう。
 PointF・・・グループで行う場合は、一人ひとりのスペースを保つためにバリア(枠)を作る。
(2)園芸療法プログラムの計画
 ア なぜ計画するのか
 多くの場合はうまくいくはずである。うまくいっていない場合は、もともとうまくいくように計画されていない。うまくいかないと、たくさんのスタッフの中には、自信を失う者が出て、専門的な知識が足りないというような思いを持ちやすい。
 逆に、成功しないとなると、クライアントや資金提供をした人、財源にも悪い影響が出る。
 イ 成功するプログラムをつくるには
 事前に、十分な計画・準備をしておくことが成功の第一歩である。園芸療法は経験が多くなっても、たえずプログラムの計画が大切である。
 セラピストの中には、ひとりでやろうとする人がいるが、周りの多くの人によって支援が得られるはずである。クライアント自身も、“自分たちも(知識・情報を)与えることができる”という感覚が持てることも重要である。参加する人が共に、どんな情報が必要か考えることである。
 高齢者と作業するセラピストの例・・・そのセラピストは園芸の知識がないと悩んでいた。ガーデニングの知識を高齢者の方が持っていることがあり、その知識を引き出してあげることが大切で、高齢者自らも、情報を発信する立場に立てる。
 ウ グループ討議
 講師からの質問@・・・プログラムを計画しなかったらどうなるか。質問A・・・事前に計画したらどんなメリットがあるか。質問B・・・作業分析、先ほどの植え替え作業は何段階であるか。3点についてグループ討議が行われ、Pointを確認し合った。
 エ 活動プログラムの作成
〈Planning a gardening activity programme ガーデニング活動プログラムの計画〉
 Point@・・・クライアントのモチベーションを維持できるか。PointA・・・クライアントのできる能力を積み上げていくことが大切である。PointB・・・セッションの長さは、集中力を維持する長さである必要がある。(場合によるが、通常1時間程度)PointC・・・クライアントにとって変な場所、不安に駆られる場所に感じられる場合がある。庭に出たがらなくなることもある。
〈HELPING SOMEONE LEARN 誰かが学ぶのを助ける〉
 Point@・・・クライアントに目標の説明、トレーナーに段階の概要を説明 PointA・・・どのように行うか説明、明確な実演説明(デモンストレーションの実施)、要点(キーポイント)の説明 PointB・・・十分な練習、励まし、困難を乗り越えられるよう手助けする。PointC・・・責任ある者として扱う。興味を刺激する。PointD・・・準備と計画として、目標を明確に定める。学習段階の計画、キーポイントの確認、備品・設備の準備を行う。
(3)治療環境の設計(ガーデンレイアウトの評価)
 適切な動きができないガーデンではいけない。したがって、環境、ランドスケープが正しいかが重要となる。庭園の中に、他の要素、例えば水回りを入れることも大切である。リラックス効果を得るためにも必要である。
 重いジョウロを運び、かん水することができない人もいる。そのため、簡単にクライアントが水やりができるように考えることが大切である。
 温室はアクセスが問題であり、簡単に入ることができるかが大切である。植物のためということもあるが、何よりクライアントの活動スペースのためにも広さが大切である。つまり、入って作業するクライアントのスペースを広くとることが重要である。
 作業の後、座れるということが認識できていれば、安心して(後で座ろう)作業に集中できる。(モチベーションを維持しやすい)
 直接作業する場所に日が当たらないようにすることも大切なので、シェード環境を作る。その場合、座らない人、車いすの人もシェード環境に入れるスペースを確保することが大切である。
 色遣いは、ガーデンの大きさによっても異なるが、移動できるコンテナ栽培、植え替え、ゾーン化によって、色遣いを変える方法がある。
(4)ガーデニング用具(道具選びの原則)
 @車イス、その他の場面で、感触、重さを実際に使って土入れ、穴掘り等々味わって欲しい。
 A個人にあったものを選んであげること。車イスの人も体力に個人差がある。上半身の力の違いによる道具の選択も大切である。持ちやすく、柄の長いものも多くある。
 Bサポートする道具を付けることによって、体力や力の違いを補うことができるので活用するとよい。
 

所 感
 
 園芸セラピーの実践例を豊富にもつ英国園芸療法協会から講師を迎えた研修会に参加する機会に恵まれた。今回の研修によって、クライアントに応じたセラピーの応用法や、クライアントが利用する補助具について、実践力を高める研修ができたことは意義深かった。また、同じ研修を受けた受講者同士の横の連携も図ることができ、わが国に適した園芸セラピーを模索する上で良い機会となった。
 今回の研修の成果を生徒とともに行う地域連携活動に生かす事によって、園芸と人との新しい関わり方を模索していきたいと考える。
 このたび、産業見学の機会を与えていただきました岡山県産業教育振興会をはじめ御指導いただきました関係各位に厚くお礼申し上げます。



園芸療法実践講座  
 写真記録  


視覚障害者疑似体験(種まき) 鉢上げ作業の作業分析


ガーデニング用具(補助具) サポート取り付けと作業体験


長い柄の移植ゴテの作業体験 車イスでの作業体験


グループ討議 討議内容の板書


質疑 当日の資料
   
 補足 : 今回の実践講座を参考にして、本校での
          園芸セラピー研修講座の疑似体験を行った。